Journal d'Une Inconnue

極私的備忘録

「The Many Saints of Newark (ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち」)はドラマ版を見ていなくても楽しめる

 伝説的ドラマ「The Sopranos」の前日譚という映画。今回で視聴3回目。

 

必ずと言っていいほどドラマシリーズとの比較で批評され、そのために正当な評価を受けていないのが気の毒。

幸か不幸か私は昨年初めて、ドラマを知る前にこの映画を見た。

つまり予備知識ゼロの状態で見たわけだが、とても印象に残った。

2度目の視聴は今夏、ドラマの情報を仕入れた後に。それでも印象に変化は起こらなかった。

そして昨日3回目の視聴。ドラマのシーズン1を見終えたのを機に。劇的に面白さが増して色々な発見があるのではないかと胸膨らませて。

が、それこそが期待はずれだった。結果は、過去2回見た時と面白さも印象も変わらなかった。

 

確かにドラマを見ていれば登場人物が結びつくという面白さはある。”ああ、これが〇〇の若い時か、子どもの時か”と。

でも、そんなのは私にとっては些細な発見。

この映画版でいつも心が持っていかれるのは時代背景。

とりわけ、もうひとりの主人公ハロルドを通してのブラック・パワー台頭の描かれ方だ。

暴動のシーンもさることながら、ブラックパンサー党オルグ公演(?)のシーンに毎回引き込まれる。

ステージでアクティビスト=パフォーマーふたりがパーカッションの演奏に合わせ「目覚めよ(Wake Up)」 と呪文のように繰り返し、黒人聴衆に暗示をかけていく場面だ。その聴衆の中にハロルドがいて、明らかに触発されていくのが彼のまなざしを通して分かる。

 

それと、今回3回目の視聴で初めて気づいたのだが、私の誤解でなければ実在のブラックギャングスター、フランク・ルーカス(cf. 映画「アメリカン・ギャングスター」)もちょこっと描かれている。前半ではハロルドの会話のなかでその名前が言及され、後半にハロルドが会いに行く形で登場する。彼は“目覚めた”ハロルドに「ニューヨークやロングアイランドの金持ち白人にヘロインを売りつけて稼げ」とアドバイスし、さらにイタリアンマフィアのディッキー(主人公)とのトラブルを独力でけりをつけるというハロルドに「メリークリスマス」と言って拳銃をプレゼントする。このシーンにも毎回胸を打たれる。

 

若きトニーを演じている俳優(マイケル・ガンドルフィーニ)が、ドラマ版トニー役俳優の実の息子だったと最近知ってびっくり。

私がマイケル・ガンドルフィーニを知ったのは「The Deuce ポルノストリート」を通して。

煮ても焼いても食えないバカ息子を演じていたが、それがほとんど地でやってるように見えるほどのハマり役で強烈な印象を残し、若いのに凄い役者だと思っていた。

デビューのきっかけはたとえ七光りだったとしても、父親以上に素晴らしい俳優になるのではないか。

 

ドラマとのつながりでの発見と驚きがあるとすれば、カメラ。

ドラマでトニーの妻の名はカメラ。映画版でラスト近くに一瞬登場する、トニーとつるんでる蓮っ葉な女子高生の名もカメラ。(トニーが「小銭あるか」と訊く時そう呼んだように聞こえた)。ということは、普通に考えればこのワル仲間の彼女が後のトニーの妻ってことだろう。ドラマ版の”良妻賢母”からは想像のつかない過去。でも、人生そんなものかも。若い時さんざんワルしておきながら、家庭を持つと子どもたちには厳しい教育ママ・パパになる、そういう人たちは私自身の周囲を見回しても決して少なくない。いつだったか、中高校生時代はヘビースモーカーだった女ともだちに同窓会の席で喫煙を注意されたときには飛び上がりそうになったーー「タバコは体に悪いんだよ」って、どの口が言うのかと!

他にもまだ書き留めておきたいことがあるが今日はここまで。

 

参考 キャストリスト

https://m.imdb.com/title/tt8110232/fullcredits/cast